経営判断と社会的インパクト評価:経営者にとって社会的インパクト評価はどんな意味を果たすのか

■はじめに

「社会的インパクト評価」

ここ最近のソーシャルセクターのホットイシューです。
社会的インパクト評価の役割は、

‐説明責任を果たすこと(アカウンタビリティの向上)


‐自己改善や学習に繋げること

にあります。
(過去記事はこちら)
同時に、社会的な意思を持つ組織の経営者の立場に立ってみると、社会的インパクト評価とは
経営判断に資する材料を集める手段
なのではないでしょうか。
自らが運営している組織が、社会課題の解決にどう寄与しているか。
社会的課題解決に向き合う経営者であればこそ、それを考えることが必須だからです。

■英国からのゲストを囲んだmeet up

上の写真は、社会的インパクト評価の成熟を牽引するsocial value UK の創業者、Jeremy Nicolesさんとのmeet upの様子です。

お声がけ頂き、こちらのmeet up イベントに参加させていただきました。

企画して下さったのは、JVPFの工藤さん、田淵さん 。そして進行や通訳、まとめのコメントして下さったのは慶應大学の伊藤健さん。

(JVPFについてはこちら http://www.jvpf.jp/about/

日本ベンチャー・フィランソロピー基金とは

日本ベンチャー・フィランソロピー基金(JVPF)は資金提供と経営支援を通じて社会的事業を行う組織の成長をサポートし、社会的インパクトを拡大する為に設立された国内初の本格的なベンチャー・フィランソロピー(VP)基金です。
日本財団に初回クロージング約1億円の基金が設置され、ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)と日本財団が共同して運営にあたっています。

※ベンチャーフィランソロピーって何?という方は、こちらをお読みください。
成果志向の社会貢献活動~注目されるベンチャーフィランソロピー~
http://www.murc.jp/thinktank/rc/politics/politics_detail/31

※social value UKはこちら。
http://www.socialvalueuk.org/about-us/

Jeremy Nicholls(Chief Executive)
http://www.socialvalueuk.org/staff/jeremy-nicholls-2/


〈参加者に説明をしている男性がjeremyさんです。〉

話を元にもどします。


■Jeremyさんの話を聞きながら考えた3つのこと

社会的な意思を持つ組織の経営者の立場に立ってみると、社会的インパクト評価とは

「経営判断に資する判断材料を集める手段」である。
これは何を意味するか。
そして、今の日本の現実に照らすると、何を考えなければならないのか。

Jeremyさんに教えて頂いたことを、私なりに解釈しつつ、大切なことをまとめると、
以下の3つだと考えました。

 1.社会的インパクト評価に取り組むのであれば、不完全な情報であっても、経営判断を下す素材に使うこと
 
 2.心地よい評価結果のみに心を傾けたくなる気持ちと戦う必要があること
 
 3.Reviewを経営サイクルに埋め込むこと

——–

 1.社会的インパクト評価に取り組むのであれば、不完全な情報であっても、経営判断を下す素材に使うこと

これは、「不完全な情報であっても」という点が重要なんだなと理解しました。
経営は
・ヒト・モノ・カネの配分そのものであり
・顧客や受益者といったステークホルダーとの関係性やバランスのとり方、コントロールの加減そのものである
とすれば、
「社会的インパクトを評価した」その結果をもって、経営判断を下すとは、
上の2点をどう変えるか・変えないかということなのかなあと。

そしてそれは、「社会的インパクト評価」とは関係なく、どの経営者も意識的であれ、無意識にであれ行っているわけで。

経営判断を下す際に、持ちうる限りの最大限の情報を入手しようと誰もが努力をするが、完全な情報を入手することは誰もできない。

社会的インパクト評価もまた然りで、社会的価値を自らがより良く創出するために、不完全な情報であっても、
価値判断を下し、経営へと反映させていくことが大切。

つまりはそういうことだと理解しました。

 2.心地よい評価結果のみに心を傾けたくなる気持ちと戦う必要があること

彼は「cognitive dissonance」(=認知的不協和)と向き合う・戦うことが大切、と表現していました。

認知的不協和(
にんちてきふきょうわ、
: cognitive dissonance)とは、人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態、またそのときに覚える不快感を表す社会心理学用語。アメリカの心理学者 レオン・フェスティンガー によって提唱された。人はこれを解消するために、自身の態度や行動を変更すると考えられている。 

つまりは、
・客観的なデータが示されているのに、不都合なデータには目をつぶってしまう
・自分で都合の良いストーリーを作ってしまう
・聞きたくない声を聴かない
・現状で十分だと考えてしまう
・少ないリソースで必死に頑張っているから余計に、プロセスに心を奪われてしまう。
・結果ではなく、目標を持つことや、意図を持つことそのものを過剰に重視してしまう。
ということが起こりがちだということです。

meet upの途中では、jeremyさんから「地獄への道は善意で塗り固められている(The road to Hell is paved with good intentions)」という表現も使われました。
(このことわざそのものは多義的に使われているようですが、、、。)

確かに、痛い話には耳をふさぎがちですよね。心地よい結果ばかりが出てくるわけではない社会的インパクト評価を、冷静に経営判断に使えるかどうかが、経営者には問われるということです。

 3.Reviewを経営サイクルに埋め込むこと

そして社会的インパクト評価の結果を、何らかの形で経営サイクルに埋め込むこと。
年間フローとすり合わせながら行うこと。

彼のお話を伺っていて、私の頭の中には普段から素敵だなあと感じている複数の中規模のNPOさんの名前が浮かびました。 

そのどれもが、四半期ごと・あるいは半期ごとに合宿や集中討議をされている団体です。
通常業務ではスタッフが複数の拠点や事業に散らばっていても、時間をとって集中討議をする数少ない機会に、社会的インパクト評価の経過と結果が共有される。そうした姿を目指すべきだなあと。



■結局は普段通りの「経営判断」の話である、ということ。
・・・こう書いてしまうと身も蓋もないのですが、
結局彼が言っているのは、ごく普通に経営者が行っていることを、社会的インパクト評価の世界でもやりましょうということだと感じました。
社会的インパクト評価を行う団体の大半は「自らの団体や事業の社会的価値創出」を求めてそれにトライします。

そうした組織の場合、「社会的価値創出の最大化」に経営判断の軸があるわけですから、判断の着眼点や結果は通常の経営判断と異なる可能性はある。

が、彼の話から理解できたことは、経営者として普段行っている経営判断の為の思考プロセスと同じことを普通にやろう、という話なのだ、ということ。

日本は、まだ社会的インパクト評価の議論が始まったばかりなので、
「まずやってみる」
「経験する団体を増やす」
「できる人を増やす」
「取り組みたいと考える支援側(コンサルもお金の出し手も)を増やす」
ということが当面は大切かなと思います。

しかし、やってみて、で、意味があると感じる人や組織を増やしていくことが同時に求められるわけで、その意味では「経営判断にどう繋げていくか」という視点は、もう少し強調されるべきだなぁ、そうなるといいなぁ、と。

休眠預金が目の前にある分、「国民の私有財産を使う上での説明責任を果たすツール」として社会的インパクト評価に光が当たりがちなのかなと思いますが、そもそも社会的インパクト評価とはもっと幅広い可能性や考え方を持つもの。

事業を行い、社会的なインパクトを最大化していく、そして(自らの組織の成長ではなくて)課題解決のスピードアップを図ろうとする組織にとって、「経営判断」という視点で、社会的インパクト評価が語られるようになるとよいな、と感じた次第です。

■おまけ
懇談会では、自由通り沿いにカフェを展開するブルックリンリボンフライ(BROOKLYN RIBBON FLY)のケータリングも。綺麗かつ美味しい!世界中のジンジャーエールを飲み、研究したユニークなお店だそうです。
また行かなきゃ!

JVPFの皆様、お招きありがとうございました。

2017年02月09日 | Posted in 過去ブログからの移行記事(2017年3月以前) | | Comments Closed 

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