私鉄3.0出版お祝い会にて/人口減少社会における持続可能な都市とは?

東急電鉄執行役員の東浦 亮典 (Ryousuke Touura)さんが、著作「私鉄3.0」を出版されました。

今日の記事は、「私鉄3.0」を読んで、また出版記念講演会へお招き頂いて考えたことを中心に書いてみたいと思います。

下記の写真は、出版記念講演会にて登壇させて頂いた、トークセッションの様子です。

出版記念講演会、パネルトークのオープニングの様子

この日は世田谷コミュニティ財団の代表理事の立場で。

冒頭では、世田谷のこと、まちの良いところ、課題をショートプレゼンしました。

セッションは、私だけではなく、東浦さんを囲んで、女性陣6人がそれぞれの立場から私鉄3.0を語ったのですが。

電鉄会社でありディベロッパーでもある東急電鉄とその沿線を語るだけに及ばず。まちの未来、コミュニティの未来も語る場になりました。

著者である東浦さんを囲んで、登壇者の皆さんと。この日のドレスコードは「Something Yellow」でした☆

■「私鉄3.0」とは

私鉄3.0は、2018年年末にワニブックスから出版された新書です。

田園都市構想を中核に据えた、東急電鉄という会社の歴史をたどりながら、
人口減少社会の中で、インフラを持ち、公共的な宿命を抱えた会社が、まちの未来とそこに住む人とどう向き合っていくかを語った書になっています。

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出版社のサイトから、紹介文を抜粋します。

私鉄3.0 -沿線人気NO.1・東急電鉄の戦略的ブランディング-
東浦亮典
https://www.wani.co.jp/event.php?id=6075

 

「お金」「経済」「働き方」…今までの定説、常識が通用しない時代がやってきた。
従来からの「更新」「刷新」を意味する“2.0現象”は、さまざまな業界で起きている。

「電鉄」業界もその例を漏れない。
まさしく、時代の転換を迎えようとしている。

『電車に乗らなくても儲かる未来、それが私鉄3.0!』

そんな中、私鉄が目指すべきさらなる「未来=3.0」を提言しているのが、東浦亮典氏だ。
「顧客との決済やポイントを基盤とした新たなサービス」「鉄道、バスの次に来る新しいモビリティ」「ベンチャー企業支援」など、会社の未来、私鉄の未来、首都圏のまちづくりの未来を、東急電鉄の現役の執行役員という視点から大いに語る。

さらに、社名に「電鉄」の名を冠しているが、そもそも電車だけの会社ではない東急は、なぜ、どうやって住みたい路線、駅などで常に上位にランクインされるようになったのか?
なぜ、100年にわたり、高いブランドイメージを保つことができているのか?
東急の歴史を振り返りつつ、路線図には載っていない、新しい私鉄のカタチを大提言!!

 

私自身、世田谷で暮らす東急沿線住民でもありまして。
他の電鉄会社にはない、不思議な魅力を持つ会社だなあと日々感じています。

おそらくそれは、
「電車に乗る、移動する」ということだけではなく、
「まちの未来を作り出す」ことに、創業以来100年に亘って取り組んできたからこそ、生まれる魅力ではないかと思います。

自宅近くの駅で見かけた東急電鉄のPRボード。いわゆる駅貼りのポスターです。沿線の街のこれからがイラストで表現されています。

本書では、不動産開発を行うディベロッパーとしての側面はもちろんですが、沿線という一つのエリアで、働き方、起業支援、新たなモビリティの活用、地域活動支援まで幅広く行う東急電鉄という会社の奥深さを伺い知ることが出来ます。

また日本の都市化や産業発展、高度成長と共に成長してきた、「私鉄」という日本独自のビジネスモデルの面白さが理解できると感じました。

沿線住民の方には、自分が住む町のことを、時間軸と空間軸の両面で理解する、その入門編としてもおススメです。

著者の東浦さん

■私鉄のビジネスモデル

本書は、私鉄のビジネスモデルを、

1.0=田園都市通勤モデル、
(すなわち郊外の住宅販売と電車通勤、都心での買い物をセットとして考え、稼ぐモデル)

2.0=田園都市職住近接モデル
(すなわち都心部は商業開発で稼ぎ、郊外は住宅地の再生等の事業、中間領域では職住近接モデルを新たに生み出しながら稼ぐモデル)

3.0=ICTプラットフォームを最大限に活用し、顧客の多様なニーズにスマートに応えるビジネスモデル

の3段階に分けています。

人口減少が現実のものとなった日本社会。

2025年には東京も人口減少が予想され、2045年には東京の人口も3分の1は高齢者となります。

私自身もまさに該当者なのですが、都心への「通勤」をやめ、新しい働き方、暮らし方を模索する人の割合はますます増えていきます。

結果として働く場所はより柔軟になり、場所や組織にこだわらない生き方を志す人も増えていくのでしょう。

そんな中では、確かに電鉄会社にも「2.0モデル」、すなわち知的好奇心を満たせる場を求めて柔軟に移動する働き方・暮らし方を支えることで稼ぐという、新しビジネスモデルが求められるのだなと思います。

では3.0は何か。

本書では、「ICTで繋がる、スマートなサービス、暮らし」そしてそれを「他者・他社とのWin-winな協働で実現すること」が語られていました。

また「レジデンシーカードで稼ぐ」、「グループ会社の各種サービスを有機的に繋ぐ」「その際には決済機能やポイントシステムが基盤となる」とも記載されています。

これらは特定地域の住民を囲い込み得るサービスを展開している電鉄会社だから出来ることであり、住民目線での率直な感想として、東急さんにはとても可能性がありそうに感じます。

IoTやAIでスマート化されたまち、ぜひ暮らしたいですよね!

同時に、自分としては、おそらく「私鉄3.0」が立脚する成熟社会では、「利便性」「スマートさ」によって生まれた時間的・空間的余裕を、他者のためにつかう、あるいはより人間らしい暮らしを取り戻すことに使おうとする人が増えてくるだろうなと感じました。

緑や農、せせらぎや風といった自然資源は、より価値の高い沿線の財産となり。

物理的・空間的に土地や建物を占有することよりも、人と繋がるためにオープンな場を持つことに価値が生まれ。

知的好奇心を満たし、人と繋がることで自らの成長機会を得ようとする人や、心理的な安全を感じようとする人が増える。

そしてその時には「コミュニティ」が持つ価値は今よりももっと大きくなっていくように思います。

私鉄のビジネスモデルは1.0から2.0、そして3.0へ。

本書の最終章で語られているのは「3.0時代の電鉄会社のビジネスモデル」なので、社会の姿そのものを直接的に語っているわけではないと思います。

ですので東浦さんに著作を通じて投げかけていただいたメッセージに、あくまで自分の視点を組み合わせて考えたまでですが、「スマートに繋がる次世代のまち」で、心地よく、人間らしく生きていくためには、

・公共インフラとしてのモビリティや
・セキュリティ
・私鉄が提供している保育や介護といった福祉サービス
・あるいはウェルネスサービス
などが、技術的な側面からのスマートさを高めると同時に、

例えば

・組織や背景・世代を超えて繋がる場
・「仕事」ではない貢献から学びや出会い、成長を得る機会
・世帯規模が極小化されるからこそ、「頼れる誰かが常に身近にいる」ことが感じられるコミュニティ
が重要になるのだろうな、
そこにIoTやAIが乗っかることで、安心があり、知的好奇心を満足させてくれる魅力的なまちになるのだろうなと感じます。

つまりはそこに住む人が作り出すコミュニティの質が、3.0の内実を決めるということですね。

そして、、、

なにせ、「私鉄3.0」が登場する頃の日本社会は、今よりももっともっと世帯の平均人数は減り、ダイバーシティが進み、暮らし方そのものも多様になっていくわけです。

「私鉄3.0」は、スマートかつグローバルに繋がる大きな経済圏と、ローカルに繋がる小さな経済圏が暮らしの中で相互に繋がってこそ、実現できるのだろうなあと。

コミュニティガーデンで四季を感じる、あるいは「住み開き」をした家やシェアリビングといった共有スペースで食事を共にする、といった日常が、スマートモビリティで移動した先のじぶんのまちに存在する、であるとか。

助け合い・支え合いの子育てシェア、ワークシェアが、私鉄が提供している保育や介護といった福祉サービス、あるいはIoTの力で変化した公教育と繋がって、世帯人数の多寡や居住年数に関わらず、誰もがバリアを感じず豊かに子育てが出来る、であるとか。

そういう未来が、ここで言われている「私鉄がビジネスモデル3.0としてどう稼ぐか」「それによって沿線の経済的価値をどう高めるか」という話と、「コミュニティ側をどう豊かにし、耕すか」「それによって、いかに暮らしの本質的な豊かさを手に入れるか」という話が繋がることで実現できると良いなと思います。

そして私自身が世田谷で取り組んでいることも、そういった大きな社会システムの変化の中で、役割を見出していけると良いなと感じます。

■自立する郊外型住宅地とは

もうひとつ、出版記念パーティー、そして著作の中で面白いなあと感じたのが次の図です。

本書の中でも触れられている、印象的だった図。自立する郊外住宅地とは?

書籍の中では、自立する郊外住宅地になる条件として4つの軸が提示されていました。

  • 高齢化か、多世代か
  • 短機能か、多機能か
  • 消費か、生産か
  • 放置か、再投資か

4つの軸のうち、後者を選択した郊外型住宅こそが、人口減少社会においても自立し続けられる地域、という分析です。

高齢者だけではなく、多世代がバランスよく居住していること。

住むことだけではなく、働くこと、稼ぐこと、生産することも含まれていること。

そして一度開発して”おしまい”ではなくて、培った富を地域へ再投資すること。

4つの軸で見た時に、右上側に位置するのが、「自立する郊外住宅地」なのではないか、との分析でした。

自分の理解では、「再投資」という言葉には、おそらく「商業的な意味での投資」という意味だけではなく、「次世代の地域づくりの担い手育成への投資」、あるいは「未来世代・若手世代への投資」といった文脈も含まれているのではないかと感じました。

東急電鉄さんが横浜市と共にたまプラーザ駅周辺で取り組んできた「次世代郊外型まちづくり」はまさにまちの担い手づくりが目的だったと伺いました。

また海外の例を見ても、例えばユース世代への教育機会の提供や、移民なども含む経済的困窮層やマイノリティへの就労訓練の機会づくりなども含めて、「再投資」と定義づけ、取り組んでいることが多いからです。

「不確実性の高い取り組みに対するリスクマネーの提供」を「投資」と定義づけるのであれば、沈下する地域社会にとって大切なのはまさにその意味での「投資」だと思います。

つまり、「チャレンジする人を支える資金と知恵の提供」こそが、沈下する危険性のあるまち、あるいは沈下してしまった町を変えるために必要なキーファクターだと感じました。

 

世田谷は、「郊外の住宅地」という側面も持っているものの、都心部からかなり近いエリアであり、川崎、横浜へと繋がる東急沿線の中では比較的立地条件が良い方なのだと思います。

しかし、コミュニティ財団を通じての世田谷での取組みを考える上でも、とても参考になると思いました。

財団としても、
高齢者だけではなく多世代が暮らすまちを、
単機能ではなく多機能を、
消費ではなく生産を、
放置ではなく再投資を、つまりチャレンジを支えるお金と知恵の提供を目指していきたいと感じました。

 

■著者である東浦さんに、「出会いと発信の機会を頂いた」と感じた出版記念パーティー

今回の出版記念パーティー。終わってみると、著者である東浦さんは私鉄3.0に書かれている未来に関連する登壇者を揃えて下さったんだな、と感じました。

また、著作の披露だけではなくて、我々登壇者側のアクションを参加者の皆さんに伝える機会を作って下さったんだなあ、と感じました。

立場は違えど、未来をつくろうと行動する、素晴らしい皆さんと人と出会う機会を作って下さって、本当にありがたかったです。

そして、立場や組織を超えてどんどん行動する、東浦さんらしい場だったと感じました。

満員のカタリストBA

 

著者の東浦さんと。

お忙しい中、単著を出されたこと、尊敬します!
東浦さん、出版本当におめでとうございます!

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