ついに公開!「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」

発行にむけて長く準備をしてきた「インパクト投資拡大に向けた提言書」。ついに公開となりました!
http://impactinvestment.jp/2020/04/proposal2019.html

発行はGSG国内諮問委員会。

私は提言書丸ごと1冊、執筆を担当させて頂きました。

 

 

■本提言書について

インパクト投資とは、社会面・環境面での課題解決を図ると共に、経済的な利益を追求する投資行動を指します。

 

GSGはG8先進国首脳会議(サミット)を契機に立ち上げられたインパクト投資を推進するグローバルなネットワークです。

正式名称は「Global Steering Group for Impact Investment」。

G8からG20へと加盟国は拡大し、現在は32の国と地域(EU)が参加しています。

 

本提言書は、日本と世界のインパクト投資の「今」と「未来」を概観し、必要な取り組みを提言するものです。

 

具体的には、

・日本および世界のインパクト投資をめぐる5年間の変化を述べると共に、

・2025年に向けてわが国で求められる取組みを「インパクト投資の拡大に必要な8つの取組み」としてまとめ、

・2025年に目指す姿とそれに向けたマイルストーンを示す

内容になっています。

 

提言書のエッセンスをぎゅっと詰め込んだキービジュアル集も同時に公開です。

(こちらは昨年度web公開した版の改訂版になります。)

http://impactinvestment.jp/doc/impact_investment_report_2019_key.pdf

皆さまどうぞ、お読みください!

 

■提言書を書きながら考えたこと~2015年からの変化~

以下は、執筆者として本提言書をまとめながら感じたことです。

(2015年に公表した前回の提言書も執筆を担当しました。その当時と比較して感じたことが主となります。)

 

この5年間でインパクト投資の市場規模は目覚ましく成長しました。

2014年、日本のインパクト投資の市場規模は169億円

これが2019年には4,480億円になりました。

世界の市場規模は5,020億ドルです。

 

気候変動は当時の“懸念”が“現実”になりました。

それを受けて、投資行動もサステナビリティを軸とする不可逆な変化を見せています。

またSDGsの概念普及は圧倒的な加速度を見せ、インパクト投資を巡る国際的なイニシアチブの形成は急速に広がっています。

ジェンダー・レンズ・インベストメント(ジェンダー投資)という言葉は、インパクト投資の世界で一般的に言われるようになりました。

機関投資家の参入、担い手の多様化、そして何よりESG投資分野全体の成長が、インパクト投資の進展を後押ししています。

 

日本においても実例が多様化し、知見が蓄積されつつあります。

2015年当時、インパクト投資の実例は数えるほどしかありませんでした。

しかし地方創生の枠組みの中で、あるいはEBPMが言われる中で、あるいは国際的な枠組みの後押しを得て、着実にその実践は広がり始めています。

 

本提言書の取りまとめの最終段階で改めて痛感したことは、実践が積み上げられ、広がる中であらためて、「インパクト投資とは何か」という問いに向き合う必要があるということでした。

提言執筆の最終局面で、もう一度世界の潮流を学びなおし、日本だけでなく、世界においてもまさに議論が続いているのだと、実感した次第です。

 

 ■COVID-19とインパクト投資

本提言書は、コロナ禍が加速する以前の世界を語っています。

発行を控えた2019年度末、世界で感染が猛烈なスピードで拡大、社会的にも経済的にも、世界中が大きな動揺に包まれました。

今回の事態は、金融危機・リーマンショックの比ではないレベルで、社会・経済に大きな変化をもたらすだろうと言われています。

影響を逃れる国のない、真にグローバルな危機です。先進国も新興市場国も途上国も、類に漏れず影響を受ける、その影響の甚大さに言葉を失います(例えばIMFレポート)。

 

また、こうした動揺に直面して感じることは、感染症は

  • 弱くあるものをより弱くすること
  • 社会的・経済的な溜めが無い人をより強烈に追い込んでいること
  • 金銭的な格差・繋がりの格差を浮かび上がらせていること

です。

つまり感染症との闘いは、格差や貧困、人権の問題と直結しているのだと思います。

しかしこうした事態に直面して改めて、インパクト投資は、COVID-19の時代の先に必要な変革を、金融の面から支える重要な手段になり得ると感じています。

金融危機がもたらしたパラダイムシフトは、インパクト投資の拡大に極めて大きな影響を与えました。

金融資本主義の限界が語られ、価値観の変容が生まれたことはもちろん、景況悪化や解雇により新たな活躍の場を求めてインパクト投資や助成の世界に飛び込む人材が増えたこと、あるいはMBAなどでの学び直しの中で、ソーシャルインパクト、あるいはフィランソロピーといった概念と出会う人が増えたことが、この世界の変化と成長を後押ししたと言われています。

金融危機を乗り越え、成長してきたインパクト投資は、COVID-19という新たな世界的危機の中で、どのように力を発揮するのでしょうか。

その答えはまだ、明らかではありません。

しかし大事なことは、世界では既に、大変多くのインパクト投資の担い手が、この世界的な変容の中で必要な資金を提供しようと行動を始めているということです。

その動きは早く、確かなものです。私はそのことに希望を感じます。

 

Social Investment Business :Resilience and Recovery Loan Fund

GoodfinanceによるResource Hub : https://www.goodfinance.org.uk/covid-19-resource-hub-charities-social-enterprises

Bridespanの声明 :Three Ways for Impact Investors to Respond to the Coronavirus (COVID-19) Pandemic

BlackRock:BlackRock’s COVID-19 Response: Our Commitment to People and Communities

世界的な変容の中で、私たちに必要なのは、変革的な適応です。

金融は「ありたい世界を実現する手段」だと思います。

だからこそ金融もまた、変革的な適応にさらされる中で、思いもかけない変化を見せてくれると思います。

そして変化を展望する上で、インパクト投資のあり方、考え方は大きなヒントや手がかりなると信じています。

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