日本にもっと、ベンチャーフィランソロピーの風を(新経済連盟・提言書読んで思ったこと)

GW前の金曜日、新経済連盟からこんな提言書が出ました。

◆新経済連盟について

新経済連盟の参加企業は現在504社。

団体の紹介はこちらのpdfにコンパクトにまとまっています。
新経済連盟では、政策提言に向けて、複数のプロジェクトチームが置かれています。その1つとして「ベンチャーフィランソロピーPT」が置かれていることは、新経済連盟の担当の方からは伺っていましたが、今回はここでの議論がまとめられ、提言書として公開されたとのことです。

◆ベンチャーフィランソロピーとは何か?

ベンチャーフィランソロピーとは何か。

ひと言で言うと、

非営利組織(Non Profit Organization)や社会的企業(Social Enterprise)とい った、社会課題の解決を第一の目的に掲げる組織に対して、中長期に亘り経営面で強いコミットメン トを維持しながら、金銭的な支援を行う組織

を指します。

過去、自分で纏めたレポートはこちら。(http://www.murc.jp/publicity/press_release/120110.pdf)

◆年度主義から解放され、経営支援が可能なVP

ベンチャー・フィランソロピーの特徴は

  • 中長期に亘り
  • 経営面での強いコミットメントを持ちながら

社会的課題解決に取り組む人と組織を支えること。

また資金提供の金額は数百万円〜数千万円程度であることもしばしば起こります。

上述したレポートでは、Impetus trustというVPを取り上げました。

この団体の場合は、資金提供を決定するまでの期間が非常に長く、due diligenceを繰り返し、成長可能性を見極めた上で、集中的に人的・資金的資源を投下していました。

◆今回の提言の要点

今回の提言の要点は以下です。

  1.  ベンチャー・フィラソロピーが公益法人制度上の「目的事業」として認められるたの要件が不明確
    ⇒提言1:ベンチャー・フィラソロピーについて、公益認定がなされるための要件を明確化 
  2. 公益法人の収支相償原則等により、中長期的・弾力な資金援が困難
    ⇒提言2:収支相償原則の、事前規制的手法から後へ転換
  3.  ベンチャー・フィラソロピーで本質的な経営支援を行う人材や、ベンチャー・フィランソロピーの仕組みを理解した寄附が不十分
    ⇒提言3:ベンチャー・フィラソロピーの手法及び効果に対する理解促進
  4. 資金の受け手法人格により制約が存在する供給形態。他方、高い社会的インパクトを生んでる株式等にも、何らかのメリッが伴う認証等の制度が検討されるべき
    ⇒提言4:法人格により資金供給形態制約が生じることのないう関連制度の見直し
  5. 資金の受け手が生む社会的インパクトについて情報集約・提供等不十分であり、真に必要な主体への資金供給も不十分
    ⇒提言5:社会的インパクトの適切な評価、結果に係る情報集約資金の出し手へ適切な情報提供推進

なるほど、と思いつつ、思ったことを二つほど。

3.について

3のうち、経営支援人材については、確かにその通りだなと思います。一方で、このようにも思います。

ベンチャー・フィランソロピーの肝は「一般的な資本市場で組織を経営した経験を持つ人材、あるいは事業経営の支援を行ってきた経験を持つ専門性・プロフェッショナリティを持つ人材が、その知見や経験を基に、社会的課題解決を志向する人と組織を統合的に支援すること」にあります。支援は彼ら・彼女らが一般的に行ってきた手法を用いており、財務的・金銭的リターンを求めない点のみが相違点である、と私は理解しています。

もちろん、なにがしかの経営判断を行う際には、支援先となる組織が持つ“社会性”や“組織のミッション”を考慮し判断を行うことになるわけですが、“何を経営判断の軸にするのか”ということは、おそらく一般的なコンサルタントであればご支援先と共に整理し、判断材料を提供するわけで、“社会性について理解が浅いから支援ができない”ということでは全くないわけです(というか“その組織が持つプリンシプルや行動基準・軸が何であるか”が洞察できない=コンサルタントとして一流ではない、ということになのではないかと思います。)

したがって、私が思うには、経営支援人材は既に世の中に存在しており、社会課題に関する一般的な感度と、そうした課題に共感できる多少の人間臭さがあれば素地としては十分、あとは「支援先の組織・人が守ろうとしている社会性とは何なのか」か、ということをコンサルタントとして正面から考え、理解できれば、(そして願わくば、具体的に理解する機会を現場が&社会が提供することができれば)一定程度の人材開拓は進むのではないかと思います。

もちろん支援人材にはレベル感があります。また「団体が抱える課題の本質を見極め、必要な資源を統合的に判断し、能力を持つ集団に繋ぐ」という、ディレクション的な立場の人材も必要でしょうし、戦術レベルに落ちたタスクを一つ一つ一緒に解決する支援人材も必要なのだと思います。今回の提言ではそのどちらを意図しているのかははっきり記載はされていませんが、自分としては、前者の必要性をより強く感じます。

4.について

これは、各省庁や、G8社会的インパクト投資タスクフォースなどでも議論され続けていることですね。

SITR(Social Investment Tax Relief)も、形はそのままでないにせよ、早く日本で導入されると良いなあと。

過去B コープ、Bコーポレーションについてまとめた記事はこちら。

前編:定着するか?Bコーポレーション〜認証取得企業の登場から考える(http://blog.livedoor.jp/mizutanieri/archives/14070540.html)

後編:定着するか?Bコーポレーション 〜考えるべき4つのポイント〜 」(http://blog.livedoor.jp/mizutanieri/archives/14242038.html)

CICについてはこちらも。

「社会的企業についての法人制度及び支援のあり方に関する 海外現地調査報告」(概要版本編と、両方公開されています。)

こう見ると、ずいぶん長くこの種の議論をしていますね。法人制度・認証制度は一足飛びにはいきませんが、社会的投資と休眠預金(←民間資金を呼び込むことが制度的に必須となった場合には)が、トリガーになる可能性はあるなと考えています。

◆日本にもVPの波を

提言を読んで思うこととしては、兎にも角にも、実際のVPがもっと数多く、多様に現れることが大切だということです。

日本での本格的なVPの第1号である日本ベンチャー・フィランソロピー基金の誕生から4年。支援先は4団体。

SVP東京の登場にも、その当時本当に勇気づけられました。

でも日本の経済規模・人口規模・社会課題の多様化と深刻化からすれば、VPがもっと登場していいはずです。

所得格差・経済格差・断絶が開きつつある今だからこそ、必要とされる仕組み。

提言をきっかけに、制度や仕組みが変わることはもちろん、経済界から「VPに自ら資金を投じよう」、「自らVPを立ち上げよう」という経営者が登場することが大切だと切に感じました。

2017年05月17日 | Posted in ソーシャルビジネス・民間非営利活動, 記事・執筆・公表資料, お知らせ | | Comments Closed 

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